鉄イオンの力で持続可能な海をとり戻す

リサイクルトレンドウォッチ(79)
鉄イオンの力で持続可能な海をとり戻す
鉄鋼スラグで「磯焼け」をストップ! 藻場を復活

 地表の約7割が水で覆われている地球は、「水の惑星」といわれます。地球全体の水の約97%を占めるのが海。その海の中でもとりわけ生物にとって重要な場所は、淡水と海水が混ざり合う汽水域や沿岸域に広がる海草・海藻で形成された藻場です。藻場は水中のさまざまな生物の隠れ場所や産卵場所になるだけでなく、海藻や植物プランクトンが行う光合成によって二酸化炭素を吸収し、水の浄化や海中に酸素を供給する役割も果たしています。
ところがいま日本では、こうした藻場が大規模に消失する「磯焼け」呼ばれる現象が全国各地で発生し、“海の砂漠化”が進行しています。原因として温暖化による水温上昇や、ダム建設等による沢水や流域水の減少など、複合的な要素が指摘されますが、なかでも“森と海のつながり”から特に注目されているのが「生態系の鉄不足」です。
海藻や植物プランクトンにとって鉄は、窒素、リンなどのミネラルと同様、生きるための必須元素。しかし植物が利用できる鉄は、鉄イオンだけです。鉄は酸化しやすく(赤サビ)、酸化すると水に溶けにくい鉄粒子となって沈殿してしまい、植物が利用することはできません。
植物に利用可能な鉄イオンを海に届けているのが、「フルボ酸鉄」という物質です。自然界では、山の落ち葉や枝が腐食するときにフルボ酸が生じ、それが土壌や水中の鉄と反応してフルボ酸鉄がつくられます。森の腐葉土がつくるフルボ酸鉄は、雨によって川から海へと運ばれ、海藻や植物プランクトンに届けられてその重要な栄養源になってきました。フルボ酸鉄はまた、ヘドロ化した干潟など、閉鎖水域の浄化にも役立っています。
しかし現在では、内陸部では都市化が進み、河川源流部ではダムが建設され、下流域では河川の護岸改修が行われるなどして、フルボ酸鉄は海まで流れ出にくくなりました。生態系が鉄欠乏の状態となり、かつてのような自然浄化システムが機能しなくなってしまったのです。
こうした藻場の衰退に歯止めをかけようと注目されているのが、水中に鉄イオンを供給する技術。そこで使われているのが、製鉄の工程で発生する鉄鋼スラグです。
北海道増毛町では2003年頃から製鉄メーカー、大学、漁協などが協同し、鉄鋼スラグと腐植物質を混合した施肥ユニットを海岸の汀線に埋め、藻場を再生する実証プロジェクトが行われてきました。その結果、海藻群落が繁茂し、一面が真っ白な海焼け状態だった海底にもコンブなどが豊かに生育。実験の成功を受けて、同様のプロジェクトは各方面・地域に拡大。最近では鉄鋼スラグ漁礁による海洋環境修復実証なども行われるようになっています。
路盤材やコンクリート骨材、護岸工事などの土木分野で主に使われてきた鉄鋼スラグ。今後は、海の再生と豊かさの循環をサポートする、環境資材としての活躍場面も多くなりそうです。